村上 視聴率が高いドラマを作らなければならない、ということですね。

福澤 作品の評価は人によって違います。スターウォーズも面白くないという人もいる。視聴率というのは、その時間にどれだけの人が見たかという数字です。面白いかどうかではなく、たくさんの人が見たかどうか、なのです。いろんなデータを見ると、テレビドラマを見ている人は、35歳以上の女性です。男性はあまり見ていない。35歳以上から50歳まではF2、50歳以上がF3と呼びます。ここに嫌われると視聴率が上がらない。だから、この世代に向けてドラマを作ることになります。好感度調査でキャスティングを決めたりもする。その層にどんなドラマを期待しているかとアンケートをとる。そして、刑事もの、弁護士もの、医者もの、恋愛ものばかりになる。分かりやすいのが好かれるからです。

僕はあるとき、作家の山崎豊子先生に言われました。「あなた、日本を支えているのは何だと思う? この小さな島国がなぜ世界の一流国でいられるか分かる? モノづくりでしょう? モノづくりの人たちを元気にするドラマを作りなさい」。

たしかにそうだなと思いました。映画はヒットしても、なかなか1000万人はいかない。ドラマは、ヒットすれば1000万人以上が見ます。影響力があるのです。視聴率も獲れるようになってきたし、世の中のために頑張ろうと思いました。そこで、いろいろ原作を調べているときに、「下町ロケット」を見つけたのです。池井戸潤先生の作品は全部読みました。「半沢シリーズ」、「オレたちバブル入行組」、「ルーズヴェルト・ゲーム」などです。そして池井戸先生に会いに行きました。先生も慶應OBなので「あなたの試合を見ていましたよ」と言ってくださった。先生の作品をドラマにしたいと話しました。すると、「ドラマにしても当たりませんよ」と言われました。これまでどこのテレビ局も原作権を獲りに来なかったそうです。それはそうなんです。マーケティング調査をすると、企業ものは当たらないのです。銀行の中で男同士が勢力争いをしているような話は当たらないというのが常識なんです。町工場の人がロケットを上げるために頑張る、恋愛もない、そんな話に女性は関心がない、これまでのテレビの常識では外れる作品なんです。

でも、僕は思った。これは面白いし、世の中のためになる。「日曜9時は、いつもはテレビを見ない男性も見ます。仕事をしている人が勇気を持てるし、元気になると思うんです」と話したら、どうぞやってください、ということになった。会社(TBS)には最初は反対されましたが、交渉しているうちに、そこまで言うならやってみるか、ということになりました。

村上 常識を覆して次々にヒットしたわけですね。全部見てました(笑)。そして、今年の7月には、ラグビーを題材にした「ノーサイド・ゲーム」というドラマが始まりますね。

福澤 大学卒業後、ラグビーからは遠ざかっていました。でも、いま自分があるのはラグビーのおかげだと思い始めた頃に、ラグビーワールドカップが迫ってきた。ラグビー部の先輩から「大会を盛り上げるために貢献してくれ」と言われて、僕にできるのはドラマを作ることだと思いました。普段はラグビーを見ない人に関心を持ってもらうのはドラマだと思ったのです。それで池井戸先生にラグビーについてのドラマをやりたいと話しました。すると、池井戸先生も「僕もラグビーに興味があった」と言ってくださった。池井戸先生はiPS細胞の山中伸弥教授と仲が良いのですが、山中さんも「僕がiPSを発見できたのは、ラグビーのおかげ」と言っている。ラグビーのチームワークの精神が具現化されてうまくいったのだということです。モノづくりの世界では、ラグビー出身者で偉くなっている人が多い。そんな話の中で、書いてもらったのが、今回のノーサイド・ゲームです。

村上 ノーサイド・ゲームはどんな話ですか。

福澤 ある自動車会社の話です。大泉洋さんが演じる経営戦略室のエリートがいて、上司とケンカして工場に飛ばされ、総務部長になる。そして、ラグビーチームのGMを兼務することになる。予算がないので外国人の補強もできない。少ない戦力で強くなるために合宿をする。チームは二転三転して強くなる。会社のドタバタ劇もある。

村上 ありがとうございます。これ以上は明かさないようにしましょう。内容、楽しみにしております。

福澤 ラグビーにまったく興味のない人が、ドラマを見て元気になり、少しずつラグビーが分かってくる。ラックの中のペナルティーなんてどうでもいい。そんなことは描かない。どんなに足の速いバックスがいても、スクラムの押し合いに負けると勝てない。不思議なスポーツだということを描いていきたいです。

村上 福澤さんがドラマを作るうえで大切にしていることは何ですか。

福澤 視聴者の皆さんに元気になってもらいたい。日本を元気にしたいと思ってやっています。私の立場で、視聴率がどうでもいいなんて口が裂けても言えませんが、視聴率を獲るためだけに作ると失敗します。難しいものです。7月からの日曜夜9時、ノーサイド・ゲームを見て日本の皆さんに元気になってもらいたいです。

*この続き(その4)は、 7月12日 に更新します。

[プロフィール]
1964年東京都出身 福澤諭吉の玄孫
幼稚舎(小学校)から大学まで慶応義塾、慶応義塾大学法学部卒業
幼稚舎からラグビーを始め一貫してラグビー部所属
1985年 上田昭夫監督の下、大学日本一、トヨタ自動車を破り、
日本一にも輝いた。
高校日本代表、大学では関東代表、学生日本代表、
23歳以下の日本代表Aにも選ばれた。
富士フイルムに入社するが、
1989年TBSテレビに中途採用「3年B組み金八先生」
「砂の器」「さとうきび畑の唄」「華麗なる一族」など
数多くのテレビを手掛け、「半沢直樹」で平成ドラマ視聴率一位を獲得
現在、テレビ、映画の監督として活躍中。
7月から始まる「ノーサイドゲーム」は、池井戸潤原作の
ラグビーを題材としたドラマで9月開幕のワールドカップを盛り上げる。