村上 大学3年生(1985年度)では、全国大学選手権で優勝し、日本選手権でトヨタ自動車にも勝って日本一になりましたよね。

福澤 不思議ですよね。運もあったと思います。新日鉄釜石の7連覇と、神戸製鋼の7連覇のちょうど狭間の時期でしたから。ただ、当時の上田昭夫監督は、日本選手権の前、レフリーの傾向まで細かくアドバイスして、「絶対勝てる」と言っていました。僕は心の中では「絶対に勝てない」と思っていたから、あれ、勝っちゃったという感じです(笑)。とても良い思い出ですが、これでラグビーは辞めようと思いました。

村上 卒業後の就職はどう考えていたのですか。

福澤 映画監督になろうと思っていたのですが、ある人にテレビ局を勧められました。テレビドラマの監督も、脚本を作り、芝居を演出し、編集をする。やっていることは映画監督と同じだというのです。テレビ局が映画を作る時代になるし、もう始まっていると。ところが、テレビ局は人気があって採用試験に合格するのが難しい。自信がないから逃げてしまったんです。それで少しでも映画に関係のある会社ということで、富士フィルムに入社しました。とても良い会社でした。

しかし、小学生の頃に中川先生に言われたことを思い出すわけです。好きでたまらない仕事(映画監督)を見つけたはずなのに、そこから逃げている。ラグビーもやめてしまった。これでいいのかと思いました。それで、テレビ局の採用試験を受けることにしたのです。TBSは25歳までは採用試験を受けられました。会社組織に一度入ったので、入社してしまえば希望を変えても大丈夫だと思って、志望動機にやりたいことは「スポーツ」と「ドラマ」と書いた。本当はドラマなのですが、スポーツなら面接でいくらでも話せるじゃないですか。その時は、ラグビーで日本一になったことが大きかった。「君のことは見ていたよ」と言ってくれる人もいました。それで入社できることになりました。

村上 そして、念願かなってドラマ部門で働くことになるのですね。

福澤 そうです。ドラマの仕事を始めて、何が役に立ったかといえばラグビーなんです。仕事のほとんどはチームワークです。ドラマのAD(アシスタント・ディレクター)は、仕事がきついので有名ですが、ラグビーの練習に比べれたらきついと感じませんでした。給料をもらって、弁当が出る。体力的にいくらでも走れるし、大声で人をまとめるのも得意だし、楽しくて仕方なかった。自主映画で賞をとったような優秀な人もいたのですが、きつさについて行けないのです。そして、僕だけが残りました。演出の勉強なんて何もしていなかった僕が体力で残ったんです(笑)。

村上 最初に携わったドラマは何ですか。

福澤 浅野温子さんの「ママハハ・ブギ」、「金八先生」などですね。とにかくいろんなドラマの助監督時代が長かったです。6、7年すると、監督として腕を試されるのですが、有名な監督の演出論を読んでもちんぷんかんぷん(笑)。これはまずいと思って、慶應ラグビー方式で行こうと思い立ちました。大学時代、合宿所に海外の強豪国の試合のビデオが置いてあったんですよ。ウェールズとかオールブラックスとか。それを何度も繰り返し見ているうちに、試合で自然に同じプレーをしていることがあるんです。良いものだけを見ていると、体にしみ込んでくるのです。だから、オールブラックス級の映画を見ることにしました。僕の好みで、世界的な評価も高い作品を30本選びました。「大脱走」「スティング」「ゴッドファーザー」もちろん「スターウォーズ」もありました。良い映画だけ自分の中に叩き込んだんです

でも、監督になった当初はまったく評価されませんでした。それでも、良いものばかりを見ていたから、このセリフ長いなとか、感覚的に分かるわけです。それで脚本を変えてみて叱られて、そんなことを繰り返しているときに金八先生のプロデューサーに「面白かったよ」と言ってもらえた。それでチームに入れてもらったんです。今度は、その働きを見ていたSMAP(スマップ)のマネージャーの方に声をかけてもらって、スマップと一緒に仕事ができるようになりました。「白い影」という中居正広さんのドラマをやって、「GOOD RUCK!!」とい木村拓哉さんのドラマもやった。そうして、視聴率戦争に巻き込まれていくわけです(笑)。

*この続き(その3)は、 7月5日 に更新します。

[プロフィール]
1964年東京都出身 福澤諭吉の玄孫
幼稚舎(小学校)から大学まで慶応義塾、慶応義塾大学法学部卒業
幼稚舎からラグビーを始め一貫してラグビー部所属
1985年 上田昭夫監督の下、大学日本一、トヨタ自動車を破り、
日本一にも輝いた。
高校日本代表、大学では関東代表、学生日本代表、
23歳以下の日本代表Aにも選ばれた。
富士フイルムに入社するが、
1989年TBSテレビに中途採用「3年B組み金八先生」
「砂の器」「さとうきび畑の唄」「華麗なる一族」など
数多くのテレビを手掛け、「半沢直樹」で平成ドラマ視聴率一位を獲得
現在、テレビ、映画の監督として活躍中。
7月から始まる「ノーサイドゲーム」は、池井戸潤原作の
ラグビーを題材としたドラマで9月開幕のワールドカップを盛り上げる。