村上 このコーナーでは、ラグビーを経験したことによって、その後の人生を豊かにした方々にお話を聞いています。今回のゲストは、福澤克雄さんです。福澤さんは、TBSのドラマで数々の名作を世に送り出している、監督、演出家として知られています。金八先生、華麗なる一族、砂の器、半沢直樹、下町ロケットなど数えきれません。ドラマ作りをすることになった経緯から聞かせてください。

福澤 僕は福沢諭吉先生の玄孫で、幼稚舎(小学校)から大学まで慶應義塾で学びました。そこに僕の人生に大きな影響を与えた先生がいました。幼稚舎では、6年間担任の先生が変わりません。私の担任の中川先生は、「勉強しなさい」と言わない人でした。だから僕はあまり勉強をしなかったんです(笑)。でも、厳しい面があって、給食を残すと、残飯をもう一度配りなおして、「食べるまで帰さない!」とやるんです。「お前たちに、健康になってもらおう、大きくなってもらおうと思って一生懸命作ってくださったものを、苦手なものだからと言って残すな!」と言う。女の子なんて泣きながら食べていました。
そして、人間とは、仕事とは何かということを説くのです。中川先生は「仕事は難しいし、厳しいものだ。だから、自分がやりたい仕事を探しなさい」と言いました。黒板に凶悪事件の事例を書く。すると犯人は、ほとんど無職です。「なぜ僕が悪いことをしないかといえば、この学校に迷惑をかけちゃいけない、君たちに迷惑をかけちゃいけないと思うからだ。好きな仕事をしていれば、どんな誘惑にも負けない。だから、好きで好きでたまらない仕事を探しなさい。そのために勉強をするんだ」と言うのです。

村上 小学生の時に、そんな先生に出会ったら影響を受けますね。

福澤 影響を受けていることが分かるのは、後のことなのですけどね。当時は何を言っているのか分からなかった。僕は幼稚舎ではあまり勉強をしなかったのですが、普通部(中学)に上がると外部からものすごく頭の良い生徒が受験に合格して入ってきました。慶應は普通部から落第がある。だから、必死で勉強しました。幼稚舎では、5年生からラグビーをします。体育の桑森先生から、「普通部に入ったら、ラグビー部に入りなさい。社会に出たときにぜったいに役に立つから」と言われました。だからラグビーも続けました。そして、中学2年のき、「スターウォーズ」を見てしまったんです。

村上 見てしまった(笑)。

福澤 スターウォーズを見たときに衝撃を受けて「俺はこれだ、映画監督になる」と心に誓いました。高校生になると、将来のことを考え始めます。映画監督になるにはどうしたらいいのかといろいろ調べました。すると、映画監督になる明確な方法がないのです。映画監督の経歴を調べていくと、黒澤明、小津安二郎、山田洋次といった名監督は一流大学を出ています。最初は映画会社で給料をもらいながら映画を作っていた。もちろん、フリーで監督になっている人もいますが、なんの経歴もない自分がいきなりフリーにはなれない。どうすれば良いのか悩みましたが、とにかく慶應義塾大学で学び、専門学校にも通って映画監督になろうと決めました。
だから、高校時代はとにかくラグビーをしていた証を作ろうと思いました。全国大会に出るか、高校日本代表に選ばれたら最高だなと思って必死で頑張りました。当時の神奈川県では相模台工業が強くて、全国大会には出られませんでした。でも、高校日本代表にはなれたのです。これでラグビーを辞められると思ったら、福沢関係者の中で初めて運動選手で日本代表クラスが出てきたということで、母が大喜びで、「ラグビー続けて良かったでしょう?」と言う。もう辞められなくなってしまったんです。親には「映画監督になる」なんて、恥ずかしくて言えなかった。あと4年やるしかないと思って大学でラグビー部に入りました。ところが、これがものすごくきつかったのです。暴力も無意味な上下関係もありません。ひたすら練習漬けです。殴ってすむなら、殴ってくださいって思うくらい(笑)。僕はね、精神的に弱いんです。大きな体の人特有のもので気が弱くて優しいわけです。でも、試合に出られない人もいるわけで、そういう選手たちのためにも頑張りました。

*この続き(その2)は、 6月28日 に更新します。

[プロフィール]
1964年東京都出身 福澤諭吉の玄孫
幼稚舎(小学校)から大学まで慶応義塾、慶応義塾大学法学部卒業
幼稚舎からラグビーを始め一貫してラグビー部所属
1985年 上田昭夫監督の下、大学日本一、トヨタ自動車を破り、
日本一にも輝いた。
高校日本代表、大学では関東代表、学生日本代表、
23歳以下の日本代表Aにも選ばれた。
富士フイルムに入社するが、
1989年TBSテレビに中途採用「3年B組み金八先生」
「砂の器」「さとうきび畑の唄」「華麗なる一族」など
数多くのテレビを手掛け、「半沢直樹」で平成ドラマ視聴率一位を獲得
現在、テレビ、映画の監督として活躍中。
7月から始まる「ノーサイドゲーム」は、池井戸潤原作の
ラグビーを題材としたドラマで9月開幕のワールドカップを盛り上げる。